日本語はひらがなを覚えたらその日から絵本を読む事が出来ます。しかし、英語は26文字のアルファベットを覚えてもなかなか絵本は読めません。日本語と英語では言葉が持つ性格や背景に色々な差があります。
1.文字の違い
カタカナやローマ字読みで英語を覚えても、英語を覚えた事にはならない。

2.音の違い
日本語は声の音。英語は息の音。

3.母音の数の違い
英語は母音が30近くある。

4.音節の重要性
英語の音節は漢字と同じような機能がある。

5.語順の問題
英語はセンテンスで覚えたほうがよい。

6.コミュニケーションの型が違う
英語とは言葉でいちいち説明する言語。
1.文字の違い
日本語には、文字一つ一つに意味を持つ漢字があります。表意文字といいます。ひらがなや英語のアルファベットは、一つ一つの文字に音素がある表音文字で、個々には意味がありません。日本語はこの表意文字と表音文字を併用して使う言語ですが、英語は表音文字だけで表現します。ここが二つの言語の大きな違いです。
日本語はこの表意文字を使って言葉を表現するため、読み方が多少違っても意味を想像する事が容易です。例えば、英語の説明の時によく使う”母音”という言葉を誤って『ぼいん』ではなく『ぼおん』と言ってしまったことがありますが、相手は漢字を想像し意味を理解してくれました。このような例は他にも色々あると思いますが、日本語は音に対する意識が薄い、発音(発声方式)が無い言語といっていいいと思います。漢字の存在がそうさせおり、言葉をはっきり言わなくても、言葉の形から意味が想像出来る文字です。しかし、表意文字が無い英語ではそうはいきません。
アメリカで水筒(Thermos)を買おうとホームセンターの店員に、「サーモスが欲しい。」と何度言ってもまったく通じませんでした。仕方なく絵で書いて説明すると、「Oh, thermos!」と言って分ってくれましたが、ちょっとした発音の違いでなぜこうも分ってくれないのかその時は本当に不思議でした。最悪なのは、「そこへお座り下さい。」と英語で言った時のことです。アメリカ人に大変妙な顔をされてしまいました。「Sit there!」と言ったつもりが相手には「Shit there!」と『そこでクソしろ。』と伝わっていたのです。水筒を表す「thermos」は舌と歯のすき間から『ス』と息を出す「th」の音が始めにきます。しかし私は「サーモス」というカタカナをイメージしたため、「s」の音となり、店員に言葉を何度繰り返しても通じなかったのです。漢字にふり仮名でも付けるような感覚で英語を話していた自分に気づきます。その最悪なパターンが「sit」と「shit」の違いに出てしまいました。
英語は音に意味があり、音を間違うと言葉の意味も変化する事に気づかされました。
繰り返しになりますが、日本語は表意文字である漢字を使うため、
文字の形に意味がある言語です。表意文字を持たない英語は、文字の音に意味がある言語です。文字に付いている音を正確に発声させる事が大事な英語をカタカナやローマ字読みで覚えると、日本語の特徴である音への意識が薄れ逆効果になります。英語は音に意味がある: 英語は 音=意味 の言語である事への意識を持つ事がとても重要です。





2.音の違い

日本語は母音で終わる言葉です。例えば、「山」をローマ字で書くとYA・MAと母音で2つの音節に分れ、個々の音節はCV(子音+母音)の構造になっています。逆に英語は子音で終わる言葉が大半を占めます。例えば、初めて英語に触れた文章「This is a pen.」の「PEN」は、CVC(子音+母音+子音)の構造になっています。少しわき道にそれますが、英語はCVCの3音文字が単語の基本を成します。「this」は4文字ありますが、[th」やその他[ch」、[sh」等2つの文字で1つの音を表す文字が沢山存在します。また、「keep」等母音を重ねて1つの音を出したり、「date」等最後の「e」を発音しない読み方等あり、かなりの頻度でCVCの3音ベースの単語が存在します。この音(発音)と文字(綴り)の関係はある程度基本的なルールがあり、Phonics(フォニックス)として子供達に勉強してもらっています。話を戻しますが、日本語は母音で終わるのに対し、英語は子音で終わる言葉が多いのです。母音は声帯が震える有声音のため音がはっきりしていますが、英語は子音で終わる声帯の震えない無声音のため音素がはっきりしない「ハーッ」と息を出した様な音となります。日本語が声の音に対し、英語は息の音なのです。この音の違いが、英語を聞取り辛くしている具体例をいくつか紹介します。

音が繋がる
英語は子音で終わる言葉が多いため、次に来る言葉が母音で始まる言葉があると、単語同士がブレンドされ別の言葉に聞こえ、聞き取りが難しくなる場合があります。アメリカで授業を聴講していた時、隣の学生から『ユガリ?』と言われ(実際の発音は:You god-dit?)、私に日本語で話そうとしているのか、でも意味が分からないと思っていましたら、後から「You got it?」『分る?』と聞かれたていました。別の例で:
get in → ge-din
get out → ge-dout
good idea → goo-di-dia
hang around → han-ga-round
負の電荷(-)が正の電荷(+)に引き付けられているように、子音は母音とくっついたほうが収まりがよいようです。なお、「ge
t in」と「get out」はブレンドされる音の「t」が「d」に変化しています。「d」は「t」の有声音で同じ口の開け方で発音します。違いは声帯を震わせるかどうかで、文字がブレンドされる場合、無声音は有声音に落ち着く場合が多くあります。よって、「good idea」と「hang around」はブレンドされる文字が「d」「g」と既に有声音であるため、音に変化はありません。この例のように、英語は子音で終わる言葉が多いため、母音とブレンドされる場合、知っている単語の組み合わせであっても、新しい言葉に聞こえてきます。ネーティブの子供達でさえも、最初は音から単語を認識出来ないそうです。なぜ彼らがが音のバリエーションを理解出来ていくのかは、聞く-話す 読む-書く を行っているからで、音だけではなく、音と文字の繋がりを常に意識しているからです。

周波数が違う
英語は子音で終わる息を出す音が多いため、声の振動が違い、それが周波数の差となって現れてきます。
日本語: 125〜1,500Hz
英語: 750〜5,000Hz (ブリティッシュEnglishは、2,000〜12,000Hz)
とかなり帯域が異なっています。よって日本人には英語の高い子音の周波数帯の音が聞き取り辛いのは当然かもしれません。当校では映画等を聞いてもらいながらdictation(言葉の書き取り)を行っていますが、単語の文字のいくつかのサウンドがはっきりと聞こえてこないと話される生徒さんの声を耳にします。日本語の環境に慣れた脳は、子音の高い周波帯域を自動的にスキップし日本語母音の低い帯域だけを拾ってしまうためだと考えられます。脳は使わないと徐々に退化するもので、集中して言葉を聞きながら脳に刺激を与える事は英語習得には大切なプロセスです。人間の脳の臨界は10歳位で、基本的聴覚はその頃までに出来上がると言われていますので、幼児期に耳を鍛える事は大人よりはるかに容易です。ちなみに人間の耳が聞き取れる周波数は、16〜16,000Hzもあるそうです。

アクセントが違う
アクセントは言葉の節目の強調であり、日本語にも英語にも存在します。英語は子音で終わる声帯を震わせない音が多いため、声ではなく、息を出す音になります。よってアクセントは息の強弱で行います。Stressと言うアクセントです。日本語は母音で終わる声帯を震わす音のため、アクセントは音の高低で行います。Pitchと呼ばれています。これは中国語やタイ語等で意味の区別に使われるToneとは異なります。日本人は無意識の内にどこが声が高いかで意味を聞き分けていますが、英語は息の強弱でアクセントを入れるため、音の高低は生じないそうです。言い換えますと、英語は音が平坦なのです。よって日本人はどの音に注目してよいか分らなくなり、言葉があっという間に耳から通り過ぎてしまうという印象を持たれた方は多いと思います。よく、『英語は学ぶより慣れろ。』と言いますが、事実だと思います。英語と日本語では聞き方に差があります。なお、英語を話す時に、アクセントであるStressの位置を間違うと言葉が通じなかったり意味が異なる場合があります。よって単語を覚える時は、Stressである息の強弱の使い分けも意識して覚える事が肝心です。





3.母音の数の違い

日本語の母音は、「あ」「い」「う」「え」「お」の5つですが、英語はなんと30近い母音があります。アルファベット26文字なのに、文字数以上に母音が存在するのを不思議に思われる方も多いと思いますが、英語は日本語と異なり子音または母音同士の組み合わせで音が多様に変化す言語なのです。英語は30近い母音で言葉を表現しますので、
音のバリエーションが圧倒的に多い言語です。逆に日本語は音のバリエーションが非常に少ない言語と言っていいと思います。『文字の違い』でも記述しましたが、カタカナ読みで英語を覚えようとしても、日本語は音の絶対数が少な過ぎるため正しく表現出来ません。結果的に英語を覚えたことにはならなくなります。
なお、子音はリスニングを重ねてゆけば何とか聞き取れる音ですが、母音は、母音数が少ない日本語を母国語とする私達に取って聞き取るのが難しい音です。人間の脳は過去に聞いたことのない音は発音出来ないし、発音した事の無い音は聞き取りが難しくなるからです。よって、30近い母音のある言語なんかとても聞き取れないと怖気づいてしまいそうですが、子供達は違います。正しい音を聞かせ、その音を正しく発声出来れば、大人に取って難しい母音の音も容易に聞き取ることが出来ます。大人でも諦める必要はありません。先ず母音の基本サウンドである「短母音」の5つをしっかり発音出来るようになれば、かなりの音が聞こえるようになります。それから、「長母音」、「半母音」「シュワサウンド」や流音と呼ばれる"L"や"R"の子音と母音のブレンドサウンド等、使用頻度の高い母音は30もありませんし、日本人が発音し易い音も沢山あります。
これは母音だけでなく子音の発音にも言えますが、
正しい音を発声するためには、正しい口の動かし方を学ぶことがとても重要です。長く海外留学され英語がペラペラになって戻ってきた人は、顔の形も変わってくると言います。英語は日本語とはまったく異なった口の筋肉を使う音も多く、一生懸命学べば顔の形に変化が出るのは自然のようです。





4.音節の重要性

『私の英語、まだカタカナ英語みたい。』と感じられている方、発音の問題もあるかもしれませんが、大きな原因に音節があると思います。音節とは母音を中心にした音のまとまりです。『音の違い』の冒頭で記述しましたが、日本語は CV(子音+母音)と一つ一つの子音に母音を自動的に挟み込む構造になっており、一文字一文字で音節が切れる(音が分かれる)ため、
日本語は音節をあまり意識する必要がない言語です。しかし英語は CVC(子音+母音+子音)が基本の音節構造となっているため、日本人は無意識に音節を作って音を分けてしまうことが多くあります。例えば、野球の「バット」は英語で「bat」と書きますが、日本語では音節が2つあります。英語では、音節は母音を中心としたまとまりですので、母音の数を数えて1つとなります。では英語で「音」を「sound」と書きますが、音節はいくつあるでしょうか? 日本語で「サウンド」とカタカナ表記すれば、音節は3つになります。英語の音節は何と1つです。母音は「O」と「U」の2文字ですが、母音が重なった場合は1音になります。ネズミの「mouse」はどうでしょうか? カタカナ表記だと「マウス」で3音節です。英語ではこれも1音節です。母音は前述の重なった母音「O」「U」と最後に「E」があり、2つ音節が存在する様に見えますが、最後の「E」は発音しない音でカウントしません。英語は文字の組み合わせで音節が切れる位置(音が分かれる文字)が変化しますので、特に日本人には、英語の音節は分り辛いという印象を持たれても当然だと思います。
辞書を見ると単語は分綴法(音節に分けて)で書かれていますので、単語の意味を調べられる時は、音の分かれ方にも目を向けられるとよいと思います。音と綴りの関係を学ぶPhonics(フォニックス)で母音の役割を学ぶため音節の分け方も学べますが、当校では講師が小学生時代にアメリカで教わった時と同じように音節の数だけ手を叩いて、子供達に単語を教えています。『何で手ば叩かんといかんと?』『面倒臭か!』と子供達に言われてしまいますが、音節を意識して単語を覚える事がとても重要だからです。『文字の違い』で記述しましたが、英語は音に意味がある言語です。よって、音節の切り方を間違うと意味が通じなかったり異なったりする単語があります。また、英語のアクセントであるStressを何処に置くかも、音節が分らないと正しくアクセント出来ず、言葉のイントネーションやリズムが変わり、相手に意味が通じない言葉になることがあります。更に英語には漢字の偏(へん)や旁り(つくり)の様な機能(prefixes, stems, suffixes)があり、単語の構造を理解する上でも何処で音節が切れるかを理解することはとても重要となります。
英語の音節とは、話す相手に言葉の意味が伝わるように音を分けるのもで、日本語でいう漢字(表意文字)の代わりの働きをしていると言っても過言ではないと思います。
なお、お気づきになられたと思いますが、日本人が英語を速く感じる原因の一つに音節の違いも入ります。日本語は一文字一文字で音節が切れるため、言葉がゆっくりなのです。ただ、英語は速く聞こえるから、速く話したほうがペラペラに聞こえてかっこいいと誤解し、カタカナ読みで英語を兎に角速く話そうとしている方もいます。これは大間違いで、意味が通じなくなるだけです。言葉はゆっくりでも、正しく音節を切って英語を話せば、言葉は自然と速く聞こえますし、カタカナ英語から脱却している自分に気づかれると思います。





5.語順の問題

英語は語順が違うと意味が変わるか通じないことが殆どです。日本語は「て」、「に」、「を」、「は」等の助詞があり、語順がばらばらでもつじつまを合わせる事が出来ます。例えば、『信一はシーラが好きです。』を、『シーラを信一が好きです。』と語順を変える事は可能です。しかしながら、「Shinichi likes Sheila.」を、「Sheila likes Shinichi」と語順を変えると意味が変化してしまいます。もう少し極端な例で、「チョコレート」「食べる」「シーラ」と言っても、「シーラがチョコレートに食べられた。」と想像する日本人は殆どいないと思います。英語で「Chocolate eats Sheila.」と言うと、そのまま理解され、面白い冗談だと笑われるか、理解出来ないと言われてしまいます。英語は形容詞にも語順があります。例えば、『アメリカ製で古くて大きな赤色の車』を、『赤色の大きな古いアメリカ製の車』と形容詞の順番を逆さまに言っても、日本人には何も違和感は持たれません。しかし、英語で形容詞の順番をばらばらに言うと、意味は通じますが、落ち着きの悪い表現だと違和感を持たれてしまいます。英語で正しく表現すると、「a big, old, red, American car」と、1.サイズ、2.古さ、3.色、4.製造場所、5.材質、と形容詞の順番が決まっているからです。このように、
日本人は個々の単語の意味を重視して全体の意味を捉えようとするのに対し、英語を母国語とする人は語順を重視して意味を捉えようとします。言葉の論理構築が異なっています。よって英語を覚える時は、単語だけに目を向けるのではなく、文章にして単語を覚えてゆくほうが効率的です。またそうする事で、脳の中の日本語の引き出しとは別の場所に、英語の引き出しも作ることが出来ます。これを続けてゆけば、英語で考える(think in English)が可能に成ります。





6.コミュニケーションの型が違う

『唐津くんちを見に行くね。』と言うと、日本人だったら言ってる本人が行くのだろうとすぐ想像がつきます。しかし、英語を母国語に持つ人は、『誰が行くの?』と聞き返してきます。英語講師をしている妻のシーラは日本語を堪能に話せます。しかし、食事の後『テーブルを片付けといて。』と頼むと、『テーブルは重くて動かせない。』と返事が返ってきました。私の端折った日本語表現も悪いのですが、テーブルは私でも重くて動かせませんし、その上にあるものだと分って欲しいものです。また、『そこ、拭いといて。』と言うと、『そこじゃ分らん。』と返事が返ってきますし、『テーブルだ。』と返事をすると、近くにあったティッシュで拭き始めました。『テーブルは台布巾で拭くものだ。』と話すと、『言わないと貴方が考えていることは分らない。』と反論されてしまいます。とにかくいちいち説明する必要があるのですが、これは妻に限った事ではないようです。
コミュニケーションには、"HC" High Context Communication(高文脈型コミュニケーション)と"LC" Low Context Communication(低文脈型コミュニケーション)があり、
日本語は高文脈型に属します。高文脈型は全体主義的な考えを持つ文化から生まれており、非言語のコミュニケーションが多いことが特徴です。人間関係が密接で情報が共有されるため、言葉以外の文脈や状況までコミュニケーションの前提としています。また、全体との協調や調和を大事にするため、主体的でない間接表現が多く、遠まわしで曖昧な言い回しが多いのです。例えば『どうも』という副詞だけで日本語は様々な意味を表現出来ます。『どうも』の後にくる言葉を言わなくても、相手が(勝手に)状況判断してくるため意味が通じてしまうのです。
英語は低文脈型に属します。低文脈型は個人主義的な考えを持つ文化から生まれており、個性を重視した主体的なコミュニケーションに価値をおく言語です。よって、伝達される情報は言葉の中にすべて入っており、逆に語られない言葉にはメッセージが存在しない事になります。自分の考えを言葉にはっきり出すため、日本人の目上の人に口答え出来ないような雰囲気はありませんが、分りきった内容でもいちいち言葉として表現する必要があったり、複雑な文法的なルールがあったりと日本人にはストレスに感じる部分も多くあります。英語はお互いの意思を一つ一つ言葉で確認し合う低文脈型の文化圏で発達した言語であることを意識する必要があります。